私の前にいた世界と引退後の世界で一番違うなと思った点は、別に自分が勝たなくてもいいという事だ。スポーツでは自分が勝つために、チームであってもチームが勝つために全てを費やす。自分以外は倒すべき相手だったから、マインドもそうなっていた。
ところが引退してしばらくしてみると、別に相手に勝たなくても結果として価値を生み出していればいいということに気がついた。敵チームと組んでもいいし、自分が主役ではなくてもいい。最初は手柄を独り占めしようとする癖が強かったけれど、ある時から人に得してもらおうと意識をしてから、仕事が少し回り始めた。考えてみれば当たり前で自分にいいことを持ってくる人を私たちは優遇する。
スポーツの世界は派閥が多いと言われる。それは私にもなんとなくわかって、あまりにコンペティティブな感覚が強すぎて、ほんのすこしの違いが許容できなくて敵を作ってしまう。スポーツの世界は敵が多い。正確に言うと一緒にやるという感覚がない。あいつの手柄の為になんて働けるかと思っている人が案外と多い。
社会にも少なからずこういう人がいるように思う。100億の5%より、1000万の100%を欲しがる。社会からの名誉より、目の前の相手に重要視されることを望む。チームを世界で勝たせることより、チーム内で一番になろうとする。総じてこういう人はプライドが高く中途半端に欲深い。本当に欲深ければ、もっとでかいものを欲しがるから小さな勝敗を気にしないと思うのだけれど、こういう人はそれが見えていないのか世界一のチームメンバーより町内一の一匹狼を好む。負けず嫌いタイプが井の中の蛙だと、めんどくさい人になる。
世界一になろうとすれば時間とそれからその他の資源も足りなさすぎるからいちいち目の前の勝負にこだわっていられなくて、使えるものは何でも使っていくしかないという感覚が強くなる。視点の低さは害が多い。