Thinking In The Past.

登り坂に強い選手の特徴

2018.01.03

毎年箱根駅伝があるたびに、山の神が誕生するようになった。平地と比べなぜ登りではあれほど力に差が出るのか。

箱根駅伝の終盤はそれなりの高度になり、かなり冷え込む。かつ登り坂は平地よりも疲労しやすいから、脱水症状や低体温症になってしまう可能性が高い。自転車に乗っている時でもそうだが、平地はある程度惰性で走ることができるが、登りで勢いを失ってしまうと本当に前に進まなくなる。勢いを失った選手と押し切れた選手の差が平地よりも開きやすい。

もう一つの理由は、走りの観点から。登り坂はその性質上、平地と異なる動きが求められる。普段我々が平地で走行する場合、足をバネのようにして走る。わかりやすくいうと、良い走りとは能動的ではなく受動的に接地している。ドクター中松さんがジャンピングシューズというのを作ったが、あのシューズの原理に似ている。

順に走りがどのように起きているか解説してみる。まず自分の体重を上に引き上げる。次に落ちてくる自分自身を足で支える。その際に膝関節や足首関節は固定しなるべく関節角度を変えないように努力する。それに対し自分自身は接地した足の方に全体重を乗せつつ、大きく腕を振ってさらに地面を押さえつける力を強くする。体重計の上で陸上選手のような腕ふりをすれば体重が一瞬増加するが、その力を利用する。足には弾性エネルギーががたまり、それが反発して自分自身に返ってくる。その力を受け止め自分自身の体を前方上方向に引き上げ、次の接地の準備と位置エネルギーの確保をする。

ところが、登りは階段を登るようなものなので、自分自身を前方上方向に引き上げても地面の位置が自分に近くなる。十分に地面と自分との間に距離がないので上から落ちてくるエネルギーをうまく使えない。ゴルフボールを胸の位置から落とせば大きく弾むが、膝の位置から落とせばあまり弾まないようなものだ。だから、登り坂では落ちてくる体重を使って反発して走る走り方ができない。

ではどうなるかというと、接地した際に不足しているエネルギーを股関節伸展や、若干の膝足首関節伸展、そして上半身の腕振りで補う。ちょうど階段を上がるときに、よいしょと膝に力を入れ、足首でぐいと自分を引き上げ、腕も大きく使って自分を上方向に引き上げる。平地に比べ登りが得意な選手は、この膝関節伸展、足首関節伸展がうまく使える選手と考えられるが、この膝関節伸展と足首関節伸展は平地においてはエネルギー効率を悪くする。平地では接地局面において膝と足首は関節角度が変わらないことが望ましい。つまり能動的に動いてはならない。登りで活躍した選手が平地を走る際にはこの動きを再教育できるかにかかっているように思われる。

短距離とどの程度同じと考えていいかわからないが、平地の走り方から登りに切り替える時は、腕を前後方向から上下方向に切り替え、足を前方について膝角度をやや深めたまま(150度)回転させるイメージで走っていた。登りから平地に入ったときに(トレーニングで登りから平地への切り替えなどをゴルフ場などで行なっていた)接地位置を前方から自分の真下に戻し、膝角度もやや浅め(160度あたり)にして走った。

違いをまとめると、

1、平地に比べ、登りでは位置エネルギーを存分に使えないために、能動的に地面を押す

2、平地に比べ、地面を能動的に押す必要があるために、接地を真下からやや前方に変える

3、平地に比べ、自分をやや前方上方向に運ぶために、腕振りを強く上下に振る

となる。これに低体温症に強い(どういう特性を持った体質なのかはわからないが)選手が登りに強い選手と言えるのではないか。最近の傾向を見ていると、登りの区間の影響が大きいので、このような走りができる選手、またはこのような走りに再適応できる選手を育てられるかどうかが勝負に影響しているように見える。