Thinking In The Past.

お風呂のボタン

2018.03.10

息子はぬるいお風呂が好きで、よく風呂が熱いと文句を言う。だから、私は息子が熱そうだなと思ったら水を入れて温度を下げ調節する。一方で私は熱いお風呂が好きだから、息子が入る前後、一人の時はボタンを押して温度を上げる。

考えてみるとこれはとても示唆的だなと思う。言われた通り反応するという仕事が、今は機械に置き換わった。少なくとも、熱いと指示されれば温度を下げるという仕事は、昔は薪をくべるような人がやっていたのだと思うが、この仕事はボタン一つでできるようになった。あとは息子の顔色を見て指示される前に調整するという仕事は残っていてそれは私がやっている。

ふと俯瞰してみると世の中の仕事は、ボタンを押されて反応することが(空気を読んで先に反応することも)、仕事に含まれているように思う。作業を繰り返して自動化されたスキルが、ボタンを押されると発動し、アウトプットする。私は長年の積み重ねで、走り出して目の前にハードルがあれば何も考えなくても自然と足を合わせて飛び越えるが、それに似ている。ボタンを押す人が押してみて、反応が返ってきて、そのアウトプットがまずければそれをちゃんと求められているアウトプットになるように調整する。それを教育と呼ぶところもある。

ボタンを押す人も、もっと上のレイヤーからボタンを押されている可能性がある。ただ、範囲が大きくなると自分だけではできないので、別の人のボタンを押してやってもらう。全体を俯瞰すると、上の方でボタンを押すとぱぱぱっと下に向かって電気がついていくツリーになっているように見える。

実際にはもっと複雑なことをやっている。例えば、この商品を月にいくら売ってこいという指示もあると思う。ただ、それも考えてみると、何度か営業していくうちにあるパターンを学習し、この人にはこういう説明をした方が成功率が高いなどのデータを溜め込んでいって、パターン学習が得意な人であれば、結果を出せるようになるのではないだろうか。

安定して入ればいいがなんらかの理由(産業の変化、テクノロジーの進化、業績)により、全体が変化さざるを得ないこともある。全体が変化してしまった場合は当然、ボタンの押し方も、アウトプットも変化を迫られる。結果としてツリーの下まで今までと違うボタンが押されるようになる。そうなるとそれぞれが新しいパターン学習をしなければならず、しかも多くの場合は急いでいるので、最適化に至るまでの時間が少ない。かつ繰り返しが長かった場合、癖が強過ぎて変化しづらくなっている。結果、かなり苦しい思いをする。

本当は産業が違っていても、応用可能なスキルはあると思われるが、一度も違うところで試したことがない人は、自分が一体何に自動化し最適化しているのか、それを抽象化するとなんと言えるのかという客観視ができないので、違う産業ではまるで自分のボタンを押されて反応するスキルが全く役に立たないのではないかという疑念を抱いている。

上のレイヤーには何があるか。それはお風呂に入りたいんだという欲求を持ち、周囲の人を巻き込み、みんなで最高のお湯加減を生み出そうと、熱量を生み出す人ではないだろうか。その次はどうやれば実現できるかを考えタスクに落としていくことが求められる。私のイメージではそこから下はボタンを押されて反応する系の仕事が多いように思われる。考えると恐ろしいが、もしかすると将来はお風呂のボタンのようにそこも全自動になるのかもしれないが。